認知症の原因ともなるアルツハイマー病とは?

 

アルツハイマー病(Alzheimer's disease)は、最も一般的な認知症の一つで、記憶力、思考力、判断力、日常生活における問題解決能力などが徐々に衰えていく、進行性の神経変性疾患です。この病気は特に高齢者に多く見られ、脳の構造と機能が時間と共に悪化していきます。アルツハイマー病は、最終的には日常生活のほとんどの側面に影響を与え、最も重度のケースでは、全く自立できない状態に至ることもあります。

アルツハイマー病の特徴

  1. 記憶障害
    • アルツハイマー病の初期症状として最も顕著なのは、短期記憶の障害です。最近の出来事や会話を覚えていられない、物を置いた場所を忘れるなどの問題が見られます。
    • 病気が進行するにつれて、長期記憶(昔の出来事)にも影響が及ぶことがあります。
  2. 認知機能の低下
    • 記憶だけでなく、思考力や判断力も低下します。例えば、計算や物事を整理する能力が低下し、段取りを組むことが難しくなることがあります。
    • 物の名前が出てこなくなったり、会話の中で文脈を理解しづらくなることもあります。
  3. 人格の変化
    • 感情の変動性格の変化が見られることもあります。元々社交的だった人が閉じこもりがちになったり、反対に怒りやすくなったりすることがあります。
    • 不安、混乱、妄想、幻覚が現れることもあります。
  4. 日常生活の支障
    • 食事、着替え、入浴、トイレの使用など、基本的な日常生活の活動に支障をきたすことがあります。進行すると、完全に他者の介助が必要になることがあります。

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。

  1. アミロイドβとタウの異常
    • アルツハイマー病の特徴的な病理学的変化は、脳内でのアミロイドβタンパク質の蓄積タウタンパク質の異常です。これらが神経細胞の間で蓄積することで、神経伝達が阻害され、脳の機能が低下します。
    • アミロイドβは、脳内に「アミロイドプラーク」と呼ばれる凝集体を形成し、神経細胞を傷つけ、炎症を引き起こします。
    • タウは、神経細胞内の「微小管」という構造を安定させる役割を持っていますが、アルツハイマー病では異常に凝集して「タウ繊維」を形成し、これが神経細胞の機能を損なわせます。
  2. 遺伝的要因
    • アルツハイマー病には遺伝的な要因が関与しているとされています。特に、APOE(アポリポタンパク質E)遺伝子の変異が関係していることが知られています。APOEのε4型があると、アルツハイマー病のリスクが高くなることがわかっています。
    • ただし、遺伝子だけが原因ではなく、生活習慣や環境因子が加わることで発症リスクが高まると考えられています。
  3. 加齢
    • アルツハイマー病の最大のリスク因子は加齢です。年齢が高くなるほど、アルツハイマー病を発症するリスクが高くなります。65歳以上の高齢者に多く見られますが、50代で発症する場合もあります(若年性アルツハイマー病)。
  4. その他のリスク因子
    • 心血管疾患(高血圧、糖尿病、高コレステロールなど)や生活習慣(運動不足、喫煙、飲酒など)もアルツハイマー病のリスクを高めるとされています。

アルツハイマー病の診断

アルツハイマー病は、症状や臨床経過をもとに診断されます。診断には以下のような方法が使われます:

  1. 医療歴と症状の確認
    • 症状の経過や、記憶障害、思考の低下、日常生活の支障などについて詳しく聞き取ります。
  2. 認知機能テスト
    • 脳の機能を評価するために、簡単な記憶テストや計算問題、言語能力をチェックするテストが行われます。
  3. 脳の画像診断
    • **MRI(磁気共鳴画像法)CT(コンピュータ断層撮影)**を使って、脳の構造的変化を確認します。アルツハイマー病では脳の萎縮が進行するため、これを画像で確認することができます。
    • **PET(ポジトロン断層撮影)**を用いて、アミロイドβの蓄積を確認することもあります。
  4. 血液検査
    • 他の疾患や病因(例えば甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症など)を除外するために血液検査が行われることもあります。

アルツハイマー病の治療法

アルツハイマー病には現在、根本的な治療法はありませんが、病気の進行を遅らせたり、症状を軽減する薬が使用されます。

  1. 薬物療法
    • コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなど)は、脳内で神経伝達を改善する働きがあり、記憶や認知機能の低下を一時的に遅らせることができます。
    • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)は、過剰な興奮を抑制することで症状の進行を遅らせる効果があります。
  2. 非薬物療法
    • 認知症ケアには、適切な環境の提供、生活習慣の改善、リハビリテーション(認知症ケア、運動、音楽療法など)が効果を発揮することがあります。
  3. 新しい治療法
    • アミロイドβをターゲットにした治療薬(アデュカヌマブ、レカネマブなど)が登場しており、今後の治療の選択肢として注目されていますが、まだ十分な臨床データが求められています。

まとめ

アルツハイマー病は、記憶障害や認知機能の低下が進行する神経変性疾患で、主に高齢者に見られます。病気の進行により、日常生活に大きな支障をきたすことがありますが、近年では新しい治療法や予防策の研究が進んでおり、将来的な治療の可能性が広がっています。早期の発見と治療が、病気の進行を遅らせる鍵となります。